なにか一人多い気配がする

今週は乾くるみさんの『セカンド・ラブ』でした。

びくびく、ニヤニヤ、しながら読みました。
叙述ミステリーが来ると分かっていましたから。

序章が結末から始まるという・・・
もうね、やるよ、引っくり返すよ、と
言わんばかりの構成ですよ。
きっと騙されると覚悟して読んだのです、が。

あれ、引っくり返すのはそこですか。
でっかいお好み焼きを期待して見ていたら
隣で、たこ焼きを引っくり返されたような。

あ、ネタバレします、ここから。

この小説は男女の恋愛バトルなんですね。
石原慎太郎さんの『太陽の季節』もそうでしたが
どうして恋愛にバトルを求めるのか
ちょっと私の感覚ではそこがよく解らないです。

主人公はヒロインに完璧にしてやられたので
最後は幽霊になって反撃に出ます。

つまり冒頭の結婚式は主人公の結婚式ではなく
ヒロインとその浮気相手(既にあちらが本命)
の結婚式であって主人公は呼ばれてもいない。
冒頭から既に死んでいるわけですけれど
恨みの幽霊となって押しかけているのです。
この小説は幽霊の回想だったんですね。

中盤でヒロインは幽霊が見えると言うので
最後に主人公の幽体を見て表情を変えます。
ということは主人公はこれから
ヒロインに憑依するんですね。
二人のバトルはまだまだ続くようです。

幽霊落ち・・・、かあ。

最後二行は、ん? と私も思ったのですが、
あ、そういうことか、へ~、ふーん・・・
えー、そうなのか、・・・うーん(読後感)

『イニシエーション・ラブ』みたいな
現実的なホラーを求めていたんだけどなあ。
なんでバトルするのか書いて欲しかったなあ。

という感想でした。
あと、
ネタバレなしで批評するのが難しかった。

小説に狙いがあるのはいいんですよ。
乾さんの小説は野心があって面白い。
ただ、狙い過ぎているんですね。
東野圭吾さんも『容疑者Xの献身』で
三本のテーマを同時進行させようとして
あまり成功しませんでしたが
こちらはさらに四本テーマですからね。

テーマが二本の場合。
本線と伏線の二つのお話を用意して、さらに
本線から見た伏線、伏線から見た本線
まで考えないと成立しません。
実に四本分の小説を一つにまとめる作業です。

テーマを三本に増やしてしまうと
三本のお話にそれぞれの相対を考えて
九本分の小説をまとめなければなりません。

四本テーマの場合の実作業は十六本分です。
年間に一本の小説を書ける人なら
単純計算で十六年を費やさなければなりません。

それでいて面白いかどうかは
書き上がってみないと分かりませんから
現実的な作業とは言えないでしょう。

頭の良い作家はついやってしまいたくなる
罠ですね、複数テーマは。
最初は出来そうな気がするのですが
やってみると想像以上に難しいものです。

しかし最近の読者は伏線が大好きらしいので
二本テーマまでは必須になってきていますが。


ここで、今週から新シリーズが始まりました
日曜深夜ドラマ『ダウントン・アビー』ですよ。
登場人物のほぼ全員がテーマをもっているという
驚くべき複数テーマを実現している作品です。

ざっと数えても十以上のテーマが同時進行する
普通に考えたら実現不可能な大作です。

これは「イギリス貴族の存在意義」という
一本の巨大テーマに全員を絡ませることで
擬似的に複数テーマを処理しているんですね。

例えば使用人の恋愛を一つのテーマに据えたら
使用人の恋愛「とイギリス貴族」を必ずつけて
他のテーマとも関係しているように見せかける。
そうして視聴者が小慣れてきた頃に
「イギリス貴族」という主軸の大きなテーマを
外してみせるのです。
それで使用人の小さな恋愛にフォーカスすれば
相対して世界はどんどん大きくなり
物語は重厚になっていきます。

一本の大きなテーマを先に立てて見せる。
大作を描きたい人は絶対に忘れてはなりません。
乾さんの今作の失敗はこれだと言えるでしょう。
(関係ないけどNHK大河の失敗も大抵はコレ)

ちなみにダウントンは今シーズンから見ても
この面白さは分からないかもしれません。
大きなテーマは前のシーズンで説明されまして
今回は引っ掻き回して収束に向かうところです。

私はもうこのドラマのファンなので
毎回冒頭のデロデロデロデロとピアノの音で
ワクワクが止まりません。
あの瞬間が最高なのです。
デロデロデロデロ・・・

チャンチャンラン チャンランランラン チャン
テーローレーレーローレー♪

さて、乾さん。
『セカンド・ラブ』は「THE HIGH PRIESTESS」と
タロットカードの副題が付くシリーズですが
あと19作、人生の内に書けるのでしょうか。

最後は作者の幽霊落ちなんて
勘弁して欲しいですよw


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