西 加奈子 「サラバ!」

nisi.jpg一下(意味レベル):中身の無い主張、無意味な物語、冗長で下手な日本語文章。
1から6(感情ステップ):不快な家族、外国への興味、愛情を求めて、主張を我慢し、孤独になって、他者を認める。
 
2014年。
著者、装画:西 加奈子、編集:小学館。
長編小説、43字×19行×733頁(上375+下358、タイトル2目次4章題6他3含む)。
構成スタイル: 散文(取り留めなく感想を述べる)。
主張:自尊を絡めた慰安。
ジャンルと要素:私小説(生活描写から問題を描く)、妄想(自作の空想への感想文)、社会(左翼思想)、倫理(左派的人生)、コメディ(家庭崩壊)、人情(家族愛など)、青春(恋愛や交友など)、ほか。

 
「僕は左足からこの世界に登場した」
 つまり左翼系の言い訳である。
 上巻の途中と下巻の最後に出てくる幻の「白い化け物」はおそらく右翼のこと。62章ではその化け物がいたからこそ僕とエジプト人の友情が芽生えたと述懐し、それを「サラバ」と名づけて連呼するという訳の解らない小説と成っている。どうやら、国の違いがあるからこそ国境を越える魅力を感じるという意識から、すなわち右翼政府があるからこそ左翼反政府が活きるという文脈で、エジプトをはじめ他国を認めて尊敬はするけれど、僕は生まれつき左派なのでそれに「サラバ」と挨拶し続けることを信念とする決意表明らしい。
 ところが最終63章には、この小説は嘘も書いてあるし、全部嘘かもしれないけれど、書いていくうちに正しさなんてどうでもよくなったので、あなたが信じさえすればいいし、嫌だったら他の人の本を読んでね、と言い出す始末。そういう主張も左派らしいと言えばそうであるが、700ページも読んだ最後でわざわざ読むまでも無いよと作者から言われるわけで、酷いったらこの上無い。始まりが右なのか左なのか作者自身も書いているうちによく分からなくなったのだろう。とにかく僕は左足から歩くからね、という結論になっている。
 小説の内容も大変に酷い。主人公の僕が生まれてから37歳の中年に至るまでのお話が全く支離滅裂だ。支離滅裂という言葉しか思い出せなくなるほど、こういう文章こそが支離滅裂であると痛感させられる。無駄に長い。そして何のお話か分からない。脱線する。三度も四度も同じ展開を繰り返す。何度繰り返してもお話に一貫性が見出せないから論旨が分からない。小説内では唐突に小さな事件が始まり、いつの間にか終わっている。各章の小話が何を言いたいのかも分からない。書かれる感想や視点が話者である主人公に統一されず、他人の気持ちが喋り出す。37歳の話者が過去を振り返る設定なのに、物語の若年に没入してそこで悩み出す。必要の無い登場人物が多い。そして支離滅裂に終始して暗喩も意味を成さないから、結局は何が何だか分からないまま終わってしまう。サラバ。この支離滅裂をまた日本左派の特徴だと言えるのかもしれないが、小説から読み解ける意味は全く無い。
 描かれる物語は男女関係にだらしのない(小説内では「ゆるい」と表現される)両親から生まれた主人公の「僕」もだらしなく、その姉は目立ちたがり屋で困るというもの。大変な一家のように説明されているが大してそうでもなく、ただ男女関係にだらしないのを言い訳する文章である。56章では、主人公の母が略奪愛の折に「私は絶対に幸せになる」と宣言した事を貫くため、その父との離婚に際しても幸福を諦めず他の男を求め続けたという主張がされるが、結局ただ男が欲しい言い訳にしかなっていない。その「繋がり合い」がまた左翼だと言いたいのかもしれないが、事の本質はただ「かまってほしい」だけだと言うので、左翼の名を汚したいがために自演しているのかと疑いたくなるほど安直な動機。主人公の姉は生まれた時から自尊心が強くて社会的マイノリティに成りたがる(特別に扱って欲しいらしい)が、それはパフォーマンスでありマイノリティではない。自ら進んで巻貝アートをかぶって街頭に立ち、他人との差別を図って孤立するのは「少数派」とは言わない。宗派対立や国際交流やホモセクシャル問題などに紛れて、震災や不況や就職氷河期やネット炎上などを絡めて、さらには友情、失恋、自慰、禿げ、などを撒いて読者の同情を買おうとするが、見事にどれも関係がない。例え震災の影響でホモセクシャルが失恋しても一つに論じられる事は無い。
 また、史実についても怪しいラインで、年号のあるものはその通りに書かれているが、流行などは数年ズレている感じがする。例えば主人公は作者と同じ1977年生まれという設定らしいが、この世代は政治的同胞を意味するシンパという古い言葉を使わない。政治運動に関して徹底的に斜に構える世代だ。インターネットの登場やスマートフォンの炎上も現実での流行より少し早い。よって作者が最後に言い訳をする通り、全て嘘の可能性が高い。すなわちこの小説は作者の妄想であり、それをもって左翼に生きる宣言をしたところで、読者には全く関係のない個人的なお話であると言える。小説など書かないで黙って勝手に左足から歩けば良いのではないか。
 差し障りのない外国人、帰国子女、日本人学校、あたりの記述に隠れて、日本には無い韓国泣き女がそれとなくあるし、大阪界隈でヤクザ関係の矢田のおばちゃんが新興宗教を始めて、近所の人のご意見番として暗躍し、巨額の資金を手に入れる描写などからも、作者が極力触れないようにしている在日朝鮮の匂いがそこはかとなく漂う。ただアバズレな一族が苦労人のように描かれる文脈もその界隈で多く見られる演歌節だ。フィクション小説であり、エジプト暮らしも大してリアルではないので、真面目に読んでも仕方がない。考察も深くないのでこの小説から学べる事も無い。
 書いてある事を全て嘘だと思って読むとして、それでもこの小説を読みたいという猛者がいるなら、好きにすれば良い。
 
「齟齬どころの話じゃない」
 小説(大説と言える量だ!)の内容も酷ければ文章もまた大変である。小説の中は齟齬などと落ち着いて語れないほどの矛盾の嵐。どうも作者は、相対する二つの要素を書くと小説の中身が強調されると信じているらしく、かなり多くの内容がひっくり返る。例えば、母親は直感を貫き通す人だと1章に書かれているが、その先で母が貫く事が一切無く、揺れ続ける。53章では姉が母親のことを主人公と同じように芯が無くて揺れていると指摘している。作者の頭の中では、あんなに一貫した母さえ揺れるような状況なんだと強調したいようなのだが、矛盾した表現にしか見えない。父との離婚一度だけ信念を曲げたと説明されるが、その後何人も恋人を作っている辺り、何度も信念を曲げているようである。作者のこの癖とも言える傾向をよく表しているのは上巻p.337でサトラコヲモンサマという宗教施設を説明する一文に「荘厳さと神聖さを徹底的に排除しているからこそ、余計そのふたつを感じさせる場所のように見えた。」とある。有るべきものが無いから余計に気になると言いたい気持ちは分からないでもないが、それを感じるという事は荘厳さと神聖さという感覚は有るのだろう。どっちなんだ。下巻p.161でも空襲の焼け跡に何も残っていなかったが、一冊の辞書を見つけたなど、全編この様な表現だらけで本当に面倒くさい文章だ。
 54章はそれが絶妙で、姉が「自分の信じるものは誰かに決めさせてはいけない」と言ったすぐ後に「あなたの名前は親が歩(あゆむ)と決めたのだから、歩きなさい」と説教する。それこそ親に決められているではないか。そして姉がそれを説教するのはどうなのだ。二重の矛盾が成立するという意外な高等テクニックである。これらは探せばいくらでも出て来るもので、笑ってしまうのは下巻p.157の、「姉は深海にいる生き物のようにひっそりとしていた。(中略)。猫のようだった。」という、深海の生物じゃないのかい! と思わずツッコミたくなってしまうこれ。小説の中にはこのような大小様々の矛盾が散在している。
 何より小説の存在から矛盾が有り、語り部の主人公が「人間の性格や言動を、すべて過去の出来事とつなげてしまうカウンセリング的な考えは、僕は好きではない(p.15)」と言っているにも拘らず、700ページ以上も自分が左足から生まれた性格と37歳現在に至るまでの過去をつなげて語っている。読者の私は一体何を読まされているのかと軽く怒りを覚えるが、最後には「全部嘘でした。信じるも信じないもあなた次第」と、この怒りを煽ってくれるわけで、もう情けない溜め息しか出ない。
 使われる日本語も間違いが多い。友だちと会うだけで「邂逅」と書いたり、「すべらか」と「滑らか」が混在したり、「両性具有的」という訳の解らない概念やら、「永遠の命を得られるというまことしやかな噂」が全く「まことしやか」ではなかったり、日差しに殺意を覚えたり、テーブルに座ったり、ひそかにおごったり、「邪で己のない選択」が出来たり、他にも、精彩、卑屈、訝る、僥倖、ぶしつけ、鼻白む、放蕩、精悍、ちょっと難しい言葉はどれも使い方が怪しい。
 先述した物語の視点の揺らぎも酷く、1章の最初から既に、誰も見ていなかった主人公の出産状況を饒舌に語り始める。出産時に全身麻酔で眠っていた母が、言葉も通じない外国人医師から後に聞いた話を、僕が後で聞いて読者に向けて話しているという言い訳がなされるが、もう誰が語っているのか分からない。この下手さも一文で表現している箇所があり、下巻p.88では「僕は初恋に手を染めた女の子のように高鳴った。」という。僕は男の子じゃないのか。彼には女の子視点があるのか。作者が女性だからその感覚が飛び出してしまったのではないか。表現の拡張ばかりを追い求めて「僕は初恋に高鳴った」と普通に書けないからこうなるのだ。このページには他にも僕がフリーペーパーのコラムを書いただけで文豪レベルに達したと書くなど、やりたい放題だ。
 どこを取り上げても酷いのでこれ以上挙げても仕方ないだろうが、もう一つ最後に下巻p.271の姉が主人公に対して、かつては抱けなかった愛情が今はあると懺悔する手紙の文面を見る。「私にはあなたのことを考えられる余白がなかった。そして余白が出来たからあなたを愛しているとは思わないでほしい。私には余白などない。つまり私すべてで愛しているということ。」

 私にはもう、どこを批評したら良いか分からない。最早、矛盾とかそう言えるレベルでも無い。こんなに不調和な文章をどうやったら書けるのだろう。余白って何! 愛するって何なの! この本を読んでいると頭がおかしくなってくる!
 物語の家族が酷いのか、小説の出来が酷いのか、作者の知能が酷いのか、そのどれかと言うと、そのどれもである。

 
要約。
 
第一章 猟奇的な姉と、僕の幼少時代 (99p)
 1 僕はこの世界に、左足から登場した。そして諦念が背中を押してくれる。イランのテヘランで全身麻酔をして僕を生んだ母は人生を直感で決めて揺らがなかった。僕の名前は母に圷歩(あくつあゆむ)と決められた。母、今橋奈緒子と、父、圷憲太郎はカメラのメーカーで出会って結婚した。父は石油系の会社に転職してイランに勤務が決まった。その間に生まれたのが姉の貴子である。僕は世界を「恐怖」し、姉は世界に「怒り」を持って生まれた。姉は自分と母を比べ、ことごとく対決して、僕はその板ばさみになった。姉は「かまってほしい」気持ちから、どこでも一番目立つマイノリティになることに全力を注いだ。
 2 生まれたばかりの僕は運転手のエブラヒムの運転でメイドのバツールのいる家に帰った。4歳の姉は「私を見て!」欲求から悪さをした。幼稚園でも姉は嘘つきだった。ホメイニ氏の革命によって僕は一歳半で帰国せざるを得なくなった。
 3 大阪のアパート大家の矢田のおばちゃんは独身で背中に見事な弁天様が彫られていて姉が憧れた。矢田のおばちゃんは僕の祖母と仲が良かった。母の姉妹もアパートに来た。母は一番目の好美おばさんと競うようなところがあり、二番目の夏枝おばさんの独身で芸術家っぽい雰囲気に姉がなついた。好美おばさんには義一と文也という二人の息子と、太った末娘のまなえがいた。マイノリティ絶対主義の姉は同年のまなえとよく喧嘩した。
 4 姉は小学校に入ってもやらかした。姉に手をやいた母は僕を可愛がってくれた。素直ないい子でいればいいのだ。僕は幼稚園で「たはら えいじ」という姉と同じような問題児がいるのを知った。とにかく何も気に入らなくて、だだをこねているだけなんだ。
 5 僕は気配を消す技術のおかげで、幼稚園はおおむねうまくいった。モモエ先生は髪の毛が異常に多くて暗かった。クレヨンをトレードするのが流行った。青色を一番集めた「すなが れん」が男の子の一番人気で、ピンクを一番集めた「なかの みずき」は「ますだ やんぬ」や「さじ みおり」より可愛くなかったが、男の子の気を引くやり方が上手かった。僕の好きな「みやかわ さき」は全く他人に興味をもたず、緑色が好きだった。「みやかわ さき」の青色は「うすだ さなえ」の緑色と交換されて「もりなが けんたろう」に渡されていた。僕は「みやかわ さき」から「はだいろ」をもらった。今では差別を意識して「うすだいだい」という。
 6 姉は母と対決して病気的に痙攣した。姉は母のご飯を食べなくなって痩せた。僕は新しいクラスで「よだい えり」が好きになった。父が姉と母の間に入っても上手くいかなかった。
 7 姉は学校で「ご神木」と呼ばれるようになって徹底的に傷ついた。姉は好美おばさんの娘のまなみと「私のほうがマイノリティ」合戦をした。姉はアンネ・フランクに感化されてご飯を食べずに痩せていた。従兄弟の義一(ぎいち)と文也が僕にゲイ雑誌を見せてきて、僕は熱を出した。父の赴任でエジプトに行くことになった。
 
第二章 エジプト、カイロ、ザマレク (153p)
 8 エジプトの汚いトイレに入ってから姉と母は協力するようになった。
 9 運転手のジョールに連れられて行ったエジプトのフラットは豪邸だった。
 10 アザーンで目覚める朝、姉は初めて宗教と出会った。
 11 ピラミッドに行った。でかい。
 12 エジプトでの暮らし。メイドのゼイナブが来た。
 13 エジプト日本人学校の風習。僕は楠木彩香という女の子の隣になった。校長は浅田さん。姉はクラスメイトの牧田さんに恋をして普通になっていった。
 14 僕には向井輝美という男の親友が出来た。彼の姉は真珠と翡翠だった。青柳さんと能見兄弟の茂さんと敦さんと、森見里さんと遊んだ。
 15 現地の卑しい子供たちとの摩擦。
 16 卵かけご飯、お菓子、アニメ、僕は日本が恋しかった。卵かけご飯で玉城真里菜に誘惑されたことがあった。日本のいとこからゲイ雑誌が送られてきた。学校に持ち込むと教師に見つかって「君は卑猥だとっ!」と怒られた。
 17 現地の少年ヤコブと友だちになった。父に女の手紙が届いて母が家で泣くようになった。
 18 ヤコブと遊んで別れるときは「マッサラーマ」を変えて「サラバ」と言った。僕らの「サラバ」には「俺たちはひとつだ」という意味があった。僕らの間には大きな溝があったが、尊敬でそれを乗り越え、心は蜜月を重ねた。
 19 姉は牧田さんと親密だった。僕の家庭の不穏は大きくなり、母は「私はかわいそう」のオーラを出してやかましく泣いた。僕はヤコブの家の温かさにひかれた。
 20 向井さんが帰国して友人関係は終わった。牧田さんがあのゲイ雑誌でホモに目覚めて姉の恋愛は終わった。僕は母に連れられて一時帰国した。
 21 矢田のおばちゃんの家には『サトラコヲモンサマ』の祭壇がしつらえられていた。おばちゃんにお世話になった人たちがお布施を置いていく。僕たちは帰り道で神社に寄って祈って、カイロに帰って来た。
 22 父と母が離婚することになり僕たちは帰国することになった。ヤコブに帰国を伝えると「神がそう望むなら。」と言ってコプト教徒の教会に連れて行ってくれた。教会の前で数人の子供たちに野次を飛ばされた。「僕の神を否定しているんだ。」僕らは自然に手を繋いでナイル河沿いを歩いた。「サラバ。」「サラバ。」僕らは泣いて言い続けた。ナイル河から鯨のような白い大きな生物が出て僕らは水をかぶった。
 
第三章 サトラコヲモンサマ誕生 (116p)
 23 僕の苗字は今橋になった。生活費は父が出した。日本に戻ってカルチャーショックを受けた。長木に声をかけられ、大津と親友になった。男らしくなりたくてサッカーを始めた。姉はやはり日本の学校に馴染めなかった。
 24 姉は帰国を母のせいにして仲は悪化した。姉は黒板に「ご神木」と書かれて登校拒否するようになった。
 25 母は新しい恋をしていた。姉は矢田のおばちゃんちの「サトラコヲモンサマ」にぽつぽつ通い始めた。
 26 僕は「あのご神木の弟」と呼ばれたくなかった。姉から母の不倫を聞いて、僕は自慰に明け暮れた。姉を恨んだ。
 27 遠地香苗(おんちかなえ)や城之内より子は論外で、可愛くて人気の雑賀真琴(さいがまこと)より、八幡恵子を通じて有島美憂と付き合うことになった。
 28 別れた。
 29 母は新しい恋に夢中になり、父は痩せた。僕はモテて有頂天だった。
 30 サトラコヲモンサマの屋敷は巨大化していった。姉はそこで一目おかれる存在になった。僕は高校受験に受かり、近所の神社にお礼参りした。
 31 高校生になった! 担任の青田を僕らはブルーと呼んだ。高岩と仲良くなり、溝口も面白かったが、須玖(すぐ)と親友になった。須玖は僕の家に泊まりに来るようになり、僕の知らない本や音楽を教えてくれた。
 32 文化祭に来た女子高の明日香から話しかけられて好きになりかけ、一緒に来ていた裕子と付き合った。僕は高2で童貞を捨てたが須玖は誰とも付き合わなかった。
 
下巻 
第四章 圷家の、あるいは今橋家の、完全なる崩壊 (128p)
 33 阪神淡路大震災が来て須玖が悩み出した。オウム事件が起きてサトラコヲモンサマも非難されて姉は引きこもった。ちょうど父がドバイに転勤になったので姉は一緒に行った。
 34 僕は東京の大学に進学した。オタクが沢山いた。
 35 下半身で散々遊び呆けていた僕は男子だけのオタクサークルが心地良かった。そこに鴻上なずな(こうがみなずな)が現れた。僕は晶(あきら)という女と付き合っていた。鴻上はビッチだったのでサークルは崩壊した。
 36 鴻上と友達になった。「セックスした後は、みんな自分のことをすごく話してくれるから楽しいんです。壁がなくなる感じ? 私、50人くらいの過去と悩み知ってますよ! 神社みたいでしょ?」
 37 治夫おじさんが借金で自殺未遂を起こし、義一君がオカマだとバレた。鴻上とまた飲んだ。「モノが増えて捨てられないのが恥ずかしいんです。」
 38 晶と別れた。父と姉が帰国した。
 39 僕は雑誌のライターになって美人のフリーカメラマン紗智子と付き合いだした。姉が巻貝をかぶって街頭に立つパフォーマンスを始めた。姉にはシンパが出来た。
 40 母が再婚すると宣言した。僕は生活を支えてくれる父の手前、なんでこんなことが出来るのかと思う。
 41 祖母が死んだ。矢田の伯母ちゃんが言う。サトラコヲモンサマはなんでも良くて、茶トラの肛門から名づけた。
 42 母は小佐田さんと無理やり再婚し、父は出家した。家庭を放っておく父の勝手と、金銭的に支えてくれた父を怒る自分への嫌悪で震えた。
 
第五章 残酷な未来 (127p)
 43 姉の巻貝アートには信奉者が現れネットで祭りあげられた。紗智子が僕を利用して姉を取材し雑誌に掲載した。紗智子と別れた。
 44 ネットでご神木と書かれて姉がまた引きこもった。矢田のおばちゃんが死んだ。遺言書には『すくいぬし』以外黒塗りされた辞書の切り抜きと、『まだ見つけていない場合は夏枝に聞け』という姉へのメッセージがあった。
 45 戦後にヤクザと付き合って別れた矢田のおばちゃんは、彼の選んだ「すくいぬし」の頁を大切に独身を貫いたのだ。姉は矢田のおばちゃんの骨を撒きに外国へ旅立った。僕は禿げたから引きこもった。
 46 ライターの仕事が減ってきた。久留島澄江は僕の恋人だ。母は小佐田さんと離婚して、新しい恋人を作った。そして今橋家の三姉妹と結束した。僕は結婚という責任から逃げたかった。
 47 須玖は「てぃらみす~!」と叫ぶ芸人になっていた。震災とアメリカテロに心を痛めて自殺をしようと思い立つがティラミスを食べて気分が晴れたからだと言う。
 48 僕と須玖の友情は復活した。そこに鴻上が現れた。
 49 姉は外国人と結婚して余裕が滲み出ていた。
 50 夫のアイザックに感化された姉はユダヤ教に改宗したと言った。
 51 姉はユダヤ人になったがユダヤ教の神を信じきれない、このバランスが良いと言う。
 52 澄江が誰かに寝取られた。僕はいつまで他者から影響されるだけの生活を続けるつもりなのだろうか。
 53 姉は、何かを信じようとした私には芯があり、信じようとしてこなかった僕には芯がなくて揺れていると言った。姉はチベットで自分が信じるものを見つけた。「あなたも信じるものを見つけなさい」
 54 僕は姉の説教に腹を立てて家族から逃げて、須玖と鴻上との友情を信じようとした。ところが二人は僕を差し置いて付き合い始めていた。僕は、鴻上のことが好きだった。堂々と光の中にいる二人を見て動揺する僕は自分が大嫌いだった。
 
第六章 「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」 (95p)
 55 姉からの手紙。『私は私を信じる。あなたを愛している私自身を。私は私の信じるものを、誰にも決めさせはしない。歩、あなたが親につけてもらった名前は歩よ。歩きなさい。』僕はどうしていいのか分からなかった。
 56 我が家族の始まりは父が婚約者Kさんの親友であった母と駆け落ちしたのだった。母はKさんに誠意を込めて『大好きなあなたに、こんなことをしたから、その代わり、私は絶対に幸せになる』と言い放った。
 57 カイロ時代に届いたKさんの手紙は彼女の末期がんの知らせだった。Kさんの不幸を思った父は幸せにならんとこうと思った。幸せになろうとする母に全てを捧げることで互いにしたいことをする。母が誰かと幸せになったら出家して、今はKさんと自分が苦しさから解放されるために読経している。このすれ違いから母はずっと不幸で父はずっと幸せだった。母の「すくいぬし」は父なのだった。
 58 エジプトの民衆による革命「アラブの春」が起こり、3月11日の地震が起きた。
 59 ザマレクに行ってみた。
 60 エジプトは変わっていなかった。
 61 大人になったヤコブと僕には隔たりがあった。ヤコブは人と人の違いを認めた上で繋がることが大切だと言うが、僕はヤコブの信仰と一つになりたかった。
 62 幼い時の僕らの言葉を超えた繋がりは幸せだった。その別れの瞬間に現れた白い化け物が今度は来なかった。でも僕には見えた。矢田のおばちゃんの遺灰、姉の巻貝、母のローストビーフ、父へのKさんの手紙、須玖のレコード、夏江おばさんが祈った神社、「すくいぬし」と書かれた白い紙片、すべてのものを巻き込んで化け物は白かった。その化け物がいたからこそ僕とヤコブは繋がっていたのだ。僕は、絶望していなかった。僕には、サラバがあった。化け物の名前は「サラバ。」だ。僕たちは「サラバ!」と共に、生きてゆく。
 63 小説を書きたいと思った。須玖に感謝の気持ちを伝えた。姉は地中奥深くから伸びた芯に疲れて美しい「ご神木」のように立っていた。須玖と鴻上は生まれた娘に僕と同じ「歩(あゆみ)」と名づけてくれた。「あんたはな、左足から出てきて、それから、ゆっくり右足を出したんやで。」と母は言った。小説を書く僕は物語の神になった。書き続けてゆくうち、正しさなどどうでも良くなった。ここに書かれている出来事のいくつかは嘘だし、もしかしたらすべてが嘘かもしれない。この物語から、あなたの信じるものを見つけてほしい。見つからなかったら、他の素晴らしい物語を読んでほしい。新しい世界の扉が開いた。「サラバ!」僕は左足を踏み出す。




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